安静にするほど、痛みが治らない。その理由を、研究からお話しします
こんにちは。西宮/東京港区にあるマシンピラティス専門スタジオ「heso pilates」でインストラクターをしているJacquinです。理学療法士として、術後や怪我のあとのお客様と向き合うなかで、本当によく聞く声があります。
「手術は順調だと言われたのに、どうしてまだ痛むところがあるんですか?」
「術後、別のところの痛みが、だんだん増えてきました」
「怪我のあとは、動かないほうが早く治りますか?」
「安静にすればするほど、痛みが全然治らないんです」
これらの声には、実は一つの共通した仕組みが隠れています。今日は、その「悪循環」の正体と、そこから抜け出す考え方を、研究の裏づけとともにお話しします。
「痛い→動かない→もっと動けない」の悪循環
怪我や手術を経験すると、多くの人が、無意識のうちにこんな状態に陥ります。
「また痛くなるのが怖いから、動かさないでおこう」
これは、とても自然な反応です。痛みは「危険信号」ですから、身体を守ろうとするのは本能です。急性期には、この反応が身を守ってくれることもあります。
でも、この「動かさない」が長く続くと、話が変わってきます。動かさない部分は、どんどん硬く、弱くなっていきます。すると、少し動いただけでも違和感が出て、「やっぱり動かさないほうがいい」と、さらに動かなくなる。こうして、痛みが痛みを呼ぶ悪循環が回り始めます。
「安静にすればするほど治らない」というお客様の実感は、気のせいではありません。過度な安静そのものが、回復を遠ざけていることがあるのです。
怪我の後に起こる、3つの「心の反応」
なぜ、この悪循環が生まれるのでしょうか。近年の研究では、怪我を経験した人に、次のような心理的な反応が起こりやすいことがわかっています。
- 運動恐怖(キネシオフォビア/Kinesiophobia) ── 動くことへの過剰な恐怖。「また痛めるのでは」という不安から、動きを避けてしまう
- 破局的思考(Catastrophizing) ── 痛みを実際以上に悪く捉え、「もう治らないかも」と考えが止まらなくなる
- 過剰警戒(Hypervigilance) ── 身体の些細な感覚にも過敏になり、常に痛みを探してしまう

これらは、弱さでも、気の持ちようの問題でもありません。誰にでも起こりうる、脳と身体の自然な反応です。ただ、これが長引くと、回復の足を引っ張ってしまいます。
心の反応が、身体に及ぼすこと
問題は、これが「気持ち」だけの話で終わらないことです。研究では、運動恐怖が強い人ほど、身体に次のような影響が出ることが報告されています(Devecchi ら, 2022 ほか)。
- 可動域(ROM)の低下 ── 関節が動く範囲が狭くなる
- 動作速度の低下 ── 動きがぎこちなく、遅くなる
- 筋力の低下 ── 使わない筋肉が弱っていく
- 固有受容感覚の低下 ── 「自分の身体が今どこにあるか」を感じる感覚が鈍る
実際、慢性的な痛みを抱える人の50〜70%に運動恐怖が見られるという報告もあります。そして運動恐怖は、痛みの強さや、身体機能の低下と関連することが、複数の研究で確認されています。「怖い」という気持ちが、実際に身体の機能を落としてしまう ── ここが、この問題のいちばん厄介なところです。
20年以上前からわかっていること ── 「早く動く」ほうが、早く治る
一方で、医療の現場では、もう20年以上前から、ある事実がはっきりしています。それは、
手術のあと、早めにベッドから離れて動き始めた人のほうが、回復が早い。
ということです。これは「早期離床(early mobilization)」と呼ばれ、いまやERAS(術後回復力強化)プログラムという、世界的に使われる術後ケアの中核になっています。多くの研究が、次のことを一貫して示しています。
- 術後の合併症(深部静脈血栓症・肺炎・無気肺など)が減る
- 歩行など、日常動作の回復が早まる
- 入院期間が短くなる(平均で0.5〜2日ほど)
- 痛みのスコアや、鎮痛薬の使用が減ることも
逆に、長期間の安静(ベッド上で過ごしすぎること)は、筋萎縮・インスリン抵抗性・血栓のリスクを高めることも、はっきりわかっています。ERASガイドラインでは、状態が許せば、手術当日〜翌日のうちにベッドから出て動き始めることが推奨されているほどです。
もちろん、これは「無理をして動け」という意味ではありません。適切な範囲で、段階的に、安全に動くこと。それが、回復への近道だということです。
なぜ、研究の話をするのか
ここまで、いくつもの研究を挙げてきました。「なぜ、そんなに研究にこだわるの?」と思われたかもしれません。
理由は、はっきりしています。研究は、「根拠」だからです。
「動いたほうがいい」「安静にしすぎないほうがいい」── こうしたことを、経験や勘だけで語るのは危険です。人の身体を預かる仕事だからこそ、「なぜそう言えるのか」の裏づけが要ります。医療のガイドラインも、こうした研究の積み重ねを土台に作られています。研究は、私たちが安全に、正しい方向へ導くための「地図」なのです。
だから heso では、その場の思いつきではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づいて、お一人おひとりの回復をサポートしています。
「怖い」を、「できた」に変えていく
とはいえ、「動いたほうがいい」と頭でわかっても、怖さは簡単には消えません。それも当然のことです。
だからこそ、大切なのは、安心できる環境で、小さな「できた」を積み重ねることです。
- いまの身体で、安全にできる動きから始める
- 「痛みなく動けた」という経験を、一つずつ増やす
- その積み重ねが、「動いても大丈夫だ」という自信に変わる
ピラティスは、この「小さな成功体験」を積むのに、とても向いています。マシンや道具で身体を支え、負荷を細かく調整できるので、怖い動きを避けながら、少しずつ動ける範囲を広げていけるからです。理学療法の視点で、その日の状態を見ながら、無理のない一歩を一緒に選びます。
身体の機能には、感情も深く関わっています。「怖い」まま動かすのではなく、「これなら大丈夫」という安心の中で動くこと。それが、悪循環を断ち切る、いちばん確かな方法です。
「怖い」が生まれる、もう一つの理由 ── 代償動作
実は、これは私自身がお客様と接するなかで気づいたことでもあります。
人は痛みを感じると、その痛みを避けようとして、無意識に別の動かし方 ── 「代償動作」をしてしまいます。ところが、この代償動作こそが、かえって痛みを引き起こしていることが少なくありません。
やっかいなのは、ここからです。代償動作のまま無理に動き続けると、「動く=痛い」という経験だけが記憶に残ります。すると次にその動きをするとき、「また痛くなるかもしれない」という恐怖が先に立ち、ますます動きたくなくなる ── まさに、これまでお話ししてきた悪循環そのものです。
けれど、一度落ち着いて、正しい動かし方を試してみると、痛みが驚くほど和らぐことがよくあります。これは偶然ではありません。関節を支えるべきコアの筋肉が、きちんと働き始めた結果なのです。
まとめ~「怖くて動けない」が、回復を遠ざける
術後や怪我のあと、「動くのが怖い」と感じるのは、ごく自然なことです。でも──
過度な安静は、回復を遠ざけることがあります。適切に、安全に動くことこそが、回復への近道です。
「怖くて動けない」の悪循環に心当たりのある方。手術を控えている方、術後の不調が続く方。まずは、安心して動ける環境で、あなたの「できる」を一つずつ取り戻していきませんか。
(※ 術後・怪我後の運動の開始時期や内容は、必ず主治医の指示・許可に従ってください。この記事は一般的な情報提供であり、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。)
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