「母乳のため」にも、「自分の身体のため」にも、姿勢を整えることが大切です
こんにちは。こんにちは。西宮/東京港区にあるマシンピラティス専門スタジオ「heso pilates」でインストラクターをしているJacquinです。
- 「授乳のたびに、首や肩がガチガチになります」
- 「気づくと、いつも猫背で授乳しています」
- 「産後、腕や手首まで痛くなってきました」
- 「母乳の出が、なんとなく悪い気がします」
- 「授乳が終わる頃には、いつもぐったり疲れています」
授乳は、一日に何度も、長い時間をかけて繰り返される動作です。だからこそ、そのときの姿勢の積み重ねが、身体に大きな影響を与えます。今日は、授乳姿勢と身体の関係、姿勢と大胸筋・筋膜のつながり、そしてマタニティ・産後の時期にピラティスでできることを、理学療法士の視点からお話しします。
授乳中、身体には何が起きているのか
多くの方が、授乳のときに赤ちゃんの方へ身体を丸め込むような姿勢になります。腕で赤ちゃんを支えながら、下を向いて顔をのぞき込む ── とても自然な姿勢ですが、この姿勢が一日に何度も、長時間繰り返されると、身体には次のような負担が積み重なっていきます。
- 首・後頭部の緊張 ── 下を向く時間が長くなることで、首の後ろの筋肉が常に引き伸ばされた状態になる
- 肩・背中の丸まり ── 赤ちゃんを抱える腕の重さを支えるため、肩が内側に巻き込みやすくなる
- 胸まわりの圧迫 ── 猫背の姿勢が続くことで、胸郭が広がりにくくなり、呼吸が浅くなる
- 手首・前腕の負担 ── 抱っこや授乳のたびに、同じ腕・同じ角度で赤ちゃんを支え続けることで、腱や関節に負担が集中する
一回一回は短い時間でも、授乳は一日に何度も繰り返されます。この「小さな負担の積み重ね」が、産後の肩こりや首こり、いわゆる「腱鞘炎」のような症状につながっていくことが少なくありません。新生児期は、授乳回数が特に多いため、この負担が集中しやすい時期でもあります。
姿勢と母乳分泌の関係
「姿勢が母乳の出に関係するの?」と驚かれる方もいらっしゃいますが、間接的にはつながりがあると考えられています。
母乳が出る仕組みには、オキシトシンというホルモンが深く関わっています。このホルモンは、リラックスした状態のときに分泌されやすく、逆に身体が緊張していたり、痛みやストレスを感じていたりすると、働きが抑えられやすくなることが知られています。実際、リラックスを促す介入と母乳分泌の関係を調べた研究では、リラックス法を取り入れることでストレスホルモン(コルチゾール)が下がり、オキシトシンやプロラクチンの働きが妨げられにくくなることで、母乳の分泌や赤ちゃんの体重増加に良い影響が見られたという報告もあります。

猫背で身体がこわばり、呼吸が浅くなった状態で授乳を続けていると、リラックスしにくい状態が続き、結果として母乳の出にも間接的に影響する可能性があります。
もちろん、母乳の量や出方には、水分・栄養状態、睡眠、赤ちゃんの吸い方など、さまざまな要因が関わっており、姿勢だけがすべてを決めるわけではありません。ただ、「楽に、リラックスして授乳できる姿勢」を整えることは、身体的な負担を減らすだけでなく、授乳そのものを心地よい時間に変えていくためにも、大切な視点です。
大胸筋の硬さと、筋膜の腕線とのつながり
授乳姿勢による影響は、首や肩だけにとどまりません。赤ちゃんを胸元に抱き寄せる姿勢を繰り返すことで、大胸筋(胸の前面の筋肉)が縮こまり、硬くなりやすくなります。この大胸筋の硬さは、見た目の姿勢だけでなく、腕の使い方そのものにも影響を及ぼします。
腕・肩甲骨・胸・背骨は、「筋膜の腕線(Arm Lines)」と呼ばれる筋膜のラインを通じてつながっています。大胸筋が縮こまった状態が続くと、この腕線の流れが滞りやすくなり、腕を上げる、後ろに回すといった動作がしづらくなることがあります。授乳中は腕を身体の前で固定する時間が長いため、意識的に腕をいろいろな方向に動かす機会が、日常の中でどうしても減ってしまいます。

これは、以前の記事でもお話しした「バストラインと姿勢」の関係とも重なる部分です。大胸筋の硬さは、胸の位置や見た目の印象だけでなく、授乳のしやすさや腕・肩全体の動きやすさにも関わっている、という点は、産後の身体づくりを考えるうえでぜひ知っておいていただきたいポイントです。ピラティスで大胸筋をゆるめ、腕をさまざまな方向に動かす練習を取り入れることは、授乳姿勢による負担を和らげることにも、直接つながっていきます。
妊娠中からできること
産後の姿勢は、実は妊娠中の身体の使い方とも地続きです。お腹が大きくなるにつれて、重心が前に移動し、それを支えようと反り腰や猫背になりやすくなります。妊娠中からこの姿勢の変化に気づき、体幹や背中を支える力を保っておくことが、産後の授乳姿勢を楽にする土台になります。
また、妊娠中に呼吸が浅くなりやすい方は、産後もその呼吸パターンが続きやすい傾向があります。深い呼吸ができる胸郭の柔軟性を、妊娠中から保っておくことも、産後の身体づくりに役立ちます。
ピラティスでできること
マタニティ・産後の時期、ピラティスでは次のような視点でアプローチしていきます。
- 授乳姿勢を再現しながらの姿勢確認:実際に赤ちゃんを抱える姿勢に近い形を取り入れながら、どこに負担がかかりやすいかを一緒に確認します。
- 大胸筋のストレッチと胸を開く練習:授乳中に縮こまりやすい大胸筋をゆるめ、腕線の流れを取り戻すことで、猫背の姿勢をリセットしやすくします。
- 肩甲骨を動かす練習:さまざまな方向に腕を動かしながら、肩甲骨まわりの可動域を保ちます。
- 体幹・骨盤底筋のやさしい活性化:産後の身体の状態に合わせて、無理のない負荷で体幹を支える力を育てていきます。腹直筋離開(お腹の筋肉の分離)がある場合は、その状態に応じたエクササイズを選びます。
- 呼吸を通じたリラックス:深く、ゆったりとした呼吸を練習することは、授乳中のリラックスにもつながる、身体を落ち着かせる練習になります。
- 抱っこ・授乳で酷使される腕や手首のケア:肩や腕、手首まわりの柔軟性を保つことで、日常的な負担を和らげます。

マシンを使うことで、負荷を細かく調整しながら、産後の身体の状態に合わせて安全に進めていけるのも、ピラティスの利点です。
日常でできる習慣
- 授乳時の椅子・クッションを見直す:授乳クッションや、腕を支えるクッションを使うことで、赤ちゃんの重さを腕だけで支えずに済みます。椅子の高さも、猫背になりにくい高さに調整しましょう。
- 授乳の角度・向きを時々変える:同じ側、同じ角度ばかりで授乳を続けると、身体の左右差が生まれやすくなります。可能な範囲で、抱く向きを変えてみましょう。
- 授乳の合間に胸を開くストレッチ:一回の授乳が終わるたびに、胸を開き、肩甲骨を寄せる小さな動きを取り入れましょう。腕を大きく開く、後ろに引くといった動きを、意識的に生活の中に取り入れることが大切です。
- 深呼吸を意識する:授乳中、肩の力を抜いて、ゆっくりと呼吸することを意識してみましょう。
- 手首・前腕のケア:授乳や抱っこの合間に、手首を軽く回す、前腕をやさしくストレッチするなど、小さなケアを積み重ねましょう。
- 一人で抱え込まない:身体的な負担だけでなく、精神的な負担も、リラックスや母乳の出に影響します。家族や周囲のサポートを頼ることも、大切なセルフケアの一つです。
こんな方は、特にチェックしてみてください
- 授乳のたびに、首や肩がこわばる感覚がある
- 気づくと猫背で赤ちゃんを抱っこ・授乳している
- 手首や前腕に痛みや違和感がある
- 呼吸が浅くなっている気がする
- 産後、体型や姿勢の変化が気になっている
- 腕を大きく上げる・後ろに回す動作がしづらいと感じる
一つでも当てはまる方は、授乳姿勢や身体の使い方という視点から、ご自身の身体を見直してみる価値があります。
まとめ
授乳は、赤ちゃんとの大切な時間であると同時に、一日に何度も繰り返される「身体への負荷がかかる動作」でもあります。「母乳のため」だけでなく、「ご自身の身体を守るため」にも、授乳姿勢を見直すことには意味があります。
大切なのは、次の3つを意識することです。
- 授乳中の姿勢を整える ── クッションや椅子の高さを工夫し、猫背や首の負担を減らす
- 大胸筋・腕線の柔軟性を保つ ── 縮こまりやすい胸まわりをゆるめ、腕や肩甲骨の動きやすさを取り戻す
- リラックスできる呼吸と身体づくりを続ける ── 深い呼吸と、無理のない範囲での体幹トレーニングを取り入れる
一気に完璧を目指す必要はありません。ご自身と赤ちゃんのペースに合わせて、少しずつ整えていきましょう。
心当たりのある方は、まずは体験レッスンで、いまのご自身の姿勢や身体の状態を確認してみませんか。理学療法士としての視点から、マタニティ期・産後それぞれの状態に合わせた、無理のない一歩をご提案します。ご予約・ご相談は、このページ下部の「スタジオ一覧・ご予約」から、公式LINEでお気軽にどうぞ。
(※ 母乳分泌に関するお悩みや、産後の体調に不安がある場合は、必ず産婦人科医・助産師・母乳外来などの専門家にご相談ください。この記事は一般的な情報提供であり、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。)
── Jacquin(理学療法士/STOTT PILATES® 認定リードインストラクタートレーナー)
参考: リラックス介入と母乳分泌の関係を検討した系統的レビュー・メタ解析、および早産児・早期正期産児を対象としたリラックス介入のランダム化比較試験(ストレスホルモンの低下と、オキシトシン・プロラクチンの働き、母乳分泌量・乳児の体重増加との関連について)



